実録! 定期燻蒸から 文化財IPMへ

事例5
E県美術館様
平成27年〜
多量に発生した文化財害虫の対策をしたい!
というご相談。

経緯

E県美術館様では、トラップ調査を実施していたところ、平成28年夏から急に「チャタテムシ」が多量に、加えて「シミ」が数頭確認されるようになっていました。

チャタテムシは高湿度指標虫でカビを餌にする文化財害虫、シミは書籍など軸物等の糊付けされた紙類を食害する文化財害虫です。

ドライエリア内にトラップ調査範囲を拡大した結果、平成29年春にドライエリア内でも多量のシミが確認されました。館様からご依頼を受け、文化財IPMコーディネータの有資格者によるモニタリング作業をドライエリア内・収蔵庫内で行いました。その結果、

  • ドライエリア内
    • 収蔵庫建設時に出たと思われる木片、ホコリ、ゴミ、コンクリート片などを大量に確認。粉塵も酷く、収蔵庫内へ吹き込む等の懸念がありました。
  • 収蔵庫内
    • 金属製棚下等にホコリが溜まっている、ホコリが溜まりやすい箇所がありました。

以上からシミがドライエリア内で繁殖し、収蔵庫内へ移動しているのか、あるいは収蔵庫内で繁殖している可能性が高いと考えられました。

館様にご報告し協議した結果、何らかの処理をしたいとのご要望でした。

対策

ドライエリア内及び収蔵庫内に対するIPMメンテナンスの実施を提案いたしました。
状況を把握し、適切な対策を立てるために実施する「モニタリング作業(目視調査)」

と目視調査の結果を踏まえた「除塵・清拭処理」です。

IPMメンテナンスの内容

1 モニタリング作業(有資格者による目視調査)

改めて、文化財IPMコーディネータの有資格者の監督の下、文化財虫菌害防除作業主任者の有資格者が、収蔵庫並びにドライエリア内の目視調査を行いました。
その結果、

  • ドライエリア内
    1. 代表的な文化財害虫であるシミの活動中の個体を複数確認。
    2. ドライエリアから館外への壁面(コンクリート製)、及び収蔵庫からドライエリアの内壁(木製)壁面にわずかな隙間を確認。そこから館外に収蔵庫内の光が漏れていたので、館外からドライエリアを経て収蔵庫内まで虫類を誘引している可能性が高いと判断。
  • 収蔵庫内
    1. 代表的な文化財害虫であるシミやタバコシバンムシの死骸を収蔵庫内の複数個所で確認。(シミは活動中の個体も確認)
    2. 収蔵庫内壁面の汚れ等、問題点の特定。

2 除塵・清拭処理

空間内を文化財保存環境に適した清浄度にするため、専用機材を用い
除塵清拭処理を行いました。

  1. [1]ドライエリア内
    • ドライエリア内の粉塵が収蔵庫内に影響(吹き込む等)しないよう、収蔵庫とドライエリアを繋ぐ扉を養生。
    • 壁面をHEPAフィルター付き掃除機で除塵後、脱水ウエスで清拭処理。
    • 大きな木片やゴミを除去し、床面をHEPAフィルター付き掃除機で除塵。
  2. [2]収蔵庫内
    • 収蔵棚にある収蔵品を一旦移動させ空にし、HEPAフィルター付きの掃除機で除塵後、脱水ウエスで清拭処理。また、壁面も同様の手順で除塵、清拭処理。
    • 収蔵棚および壁面の処理後、床面をHEPAフィルター付きの掃除機で除塵後、脱水ウエスで清拭処理。

※館員様には実際の作業を最後までご覧いただきました。

評価

現在の保存環境を、問題点も含み詳細に確認できたと評価していただきました。
ドライエリア内及び収蔵庫内(施工範囲)の清浄度が向上し、チャタテムシ、シミの捕獲数が、大幅に減少しました。
また、実施後の捕獲数の推移を毎月報告するたび、「綺麗になった」「IPMメンテンナンスをやって良かった」とのコメントをいただいています。