実録! 定期燻蒸から 文化財IPMへ

事例3
C市美術館様
期間:平成26年5月〜平成26年9月(平成27年度も継続予定)
燻蒸後に設置したトラップに文化財害虫が捕獲されている
というご相談。

経緯

C市美術館様では、複数ある収蔵庫を数年かけて燻蒸処理されていました。そのうちひとつの収蔵庫で、前回の燻蒸後から設置していたトラップに文化財害虫が捕獲されていたとのことでした。事情をお聞きすると、トラップを定期的に交換されていないようで、そのため、大量の虫がトラップに捕獲されている事態に陥るまで気付けなかったと言えます。

捕獲されていた虫は、虫の死骸を食べるシミ・ヒメマルカツオブシムシ・ヒョウホンムシ等で、燻蒸後に出た虫の死骸が誘引源になっていたことがわかりました。

対策

建物自体が老朽化しているため、いつどこから虫が侵入しているのかはわかりませんでした。そこで、

  • 燻蒸後のIPMメンテナンス
  • 毎月1回のトラップ設置および交換

をご提案いたしました。

C市美術館様でご検討いただき、虫の生息場所や侵入箇所を特定する必要があること、収蔵庫の清掃が必要とのご判断から、燻蒸の仕様書を変更してIPMメンテナンスを実施することになりました。

以前、職員の皆さんで清掃されましたが手間がかかって大変だったとのことです。

トラップの交換は学芸員の工数調整がつき次第実施の予定です。

IPMメンテナンスの内容

今回は、メンテナンスの目的を、

  1. 虫の多い場所を特定すること
  2. 侵入箇所を特定すること
  3. 虫の死骸を取り除くこと

としました。

IPMメンテナンスを実施することにより、
清潔な環境に近づき虫菌害のリスクが減ることも期待できます。

具体的な作業は以下です。

  • 作品収納棚の天板を掃除機で吸取り→脱水ウエスで清拭
  • 作品を収納棚から引き出し、壁面や床をLEDライトで点検→棚・床面を掃除機で吸取り→脱水ウエスで清拭
  • 6区画にエリアわけし、それぞれの区画で掃除機パックを分けて吸取り作業を行う→各区画で粉塵の重量と粉塵分析結果を記録

評価

開館以来溜まっていたホコリが取れたことは、基本的なこととはいえ、今後の被害低減につながると予想されます。また、虫の死骸が多い場所が特定できたことで、資料の配置を検討できるようになりました。

燻蒸+IPMメンテナンスをしましたので、今後虫が出た場合は、館の老朽化によりできた隙間から虫が侵入している可能性が高いと判断でき、市に対して改修工事を訴えやすい状況が整いました。

今回は、仕様の特別変更という形で燻蒸後のIPMメンテナンスを実施しましたが、次年度以降は仕様を変更し、毎年燻蒸後はIPMメンテナンスを実施する方向で進んでいます。