1960年代からつい最近まで、日本で文化財保存といえばガス燻蒸が主流でした。
生物被害が発生したとき最も効果的な対策が燻蒸処理であることは、いまも変わりません。殺虫・殺卵・殺菌が一度に行え、生物被害はいったんリセットされます。
それなのになぜ文化財IPMの導入が広まってきているのでしょうか。
年に一度、あるいは数ヶ月に一度、燻蒸処理をすればムシやカビはほぼ全滅します。
ところが、施設や環境にムシやカビが発生する条件が揃っていたらどうなるでしょうか。
極端な例ですが燻蒸処理の1週間後にムシが発生したという報告もあります。
そして、そのムシは次回の燻蒸まで放置されることになります。
たとえ燻蒸の効果が絶大だとしても、ムシやカビが発生しない環境をつくることが 最優先だと言えます。
燻蒸処理は資格を持っている技術者しか行えません。
使用するガスは人体に有毒であり取り扱いによっては危険だからです。
燻蒸の後は何日もかけてガス抜きをする必要があります。
加えて、まだ詳しくはわかっていませんが文化財そのものにも影響がないとは言い切れません。
文化財IPMを導入しても必要と判断したときは燻蒸処理をすることになります。
でも、回数や薬の使用量は少ないに越したことはないのです。
他の手段で殺虫・殺菌ができればそちらを選択します。
燻蒸だけに頼らず、より確実に文化財を守る。それが文化財IPMです。