「処理の為の同定」と「保存の為の同定」は違う(2)
長らく更新しておらず申し訳ありません。引き続きカビの同定のお話しです。前回は「保存の為の同定」では種まで調べます、カビにも個性があるのです、とお伝えしました。ところで収蔵庫内や書庫内で発生するカビは一般的な培地(PDA培地)では培養が難しいことは御存じでしょうか?
[PDA培地では文化財のカビは出てこない?]
収蔵庫内の文化財や壁や床、書庫内の図書・資料、床等に発生したカビは一般的な培地(PDA培地)ではほとんど出ません。やはりカビには個性があり、調べるには適切な培地を選択しなくてはならないのです。私共ではPDA培地だけでなくM40Y培地も使用しています。
●PDA培地
培地は ジャガイモ+ブドウ糖+寒天で作られます。
一般的な培地で収蔵庫・書庫内の空気清浄度や浮遊しているカビを調べる時に使用します。しかしこの培地には収蔵庫や書庫内で発生する好乾性のカビはほとんど出てきません。その為、必ずM40Yも併用します。
●M40Y培地
培地は ショ糖+麦芽エキス+酵母エキス+寒天で作られます。
収蔵庫内、書庫内で発生する好乾性のカビを調べる時に適しています。尚、M40Y培地に出る好乾性カビは種まで同定します。種まで調べることで発生した環境を知ることができ、何よりも再発防止に役立ちます。
[採取の手順]
実際に収蔵庫内や書庫内でカビ被害が発生した場合には以下の手順を踏んでいます。
- ヒヤリング
カビの発生時の状況、資料の利用状況、クリーニングの履歴、建物・空調、地形・気象等もお尋ねします。
- 目視点検
LEDライトでカビの発生か所・コロニーの形状や密集度等々の発生状況、ホコリの量や種類、チャタテ等のムシの糞や死骸等を調べます。壁や床、棚に被害が無いかも確認します。また温湿度データがあれば提供して頂き温湿度の変化を確認します。
- 採取
発生しているカビを特定するためにPDA培地とM40Y培地の2種類を準備します。
先ず発生しているカビを採取用シールや綿棒で採取(=付着菌採取)しPDA培地とM40Y培地の2種類で培養します。また空間中に浮遊しているカビとその量を測るため、同様に2種類の培地を使用しエアーサンプラーでカビを採取(=空中浮遊菌採取)します。何れも5日から7日間程度培養し同定します。
[処理の前後]
IPMメンテナンスやカビ処理の時にも同様に2種類の培地を使用し、資料に付着しているカビ、並びに空中を浮遊しているカビをPDA培地とM40Y培地の2種類の培地を使用して調べることをお勧めします。
くどいようですが、「収蔵庫内・書庫内で発生したカビを調べる時はM40Y培地でも培養が必要です。」 更にカビの採取だけでは正確なカビ調査とは言えません。①②のヒヤリングや目視点検は文化財のカビの専門家がさせて頂く点がとても大切です。①②なしでは的確な再発防止策や処理のご提案も望めないことを意味します。