文化財のカビの湿度と温度
再発したカビの点検の仕方をお伝えする前に、カビそのものに少し触れておきたいと思います。今回は日常の収蔵庫や書庫等において被害をもたらすカビについてお伝えします。
収蔵庫や書庫内の空気は必ずしも均一ではなく、四隅や床付近また集密書架では空気が滞留して温度差・湿度差が発生しています。
カビの発育を防ぐには「湿度は60%以下」に設定しますが、温度でカビの生育をコントロールするのは実質的に困難です。
[被害をもたらす代表的なカビの生育湿度]
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湿度による分類 | 生育(相対)湿度 | 文化財に発生する 代表的なカビ |
好乾性カビ | 65%(70%)から90% | アスペルギルス・レストリクタス、 アスペルギルス・ペニシリオイデス 、ユーロチウム・アムステロダミ ユーロチウム・チェバリエリ ワレミア・セビ |
耐乾性カビ | 80%(85%)以上 | アスペルギルス・バージカラー |
好湿性カビ | 97%以上 | - |
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上記のようにカビを生育湿度で分類すると3つにわけることができます。文化財に発生する多くのカビは好乾性カビの仲間です。このため収蔵庫などの空間には空気の滞留(温湿度差)があることを前提に「湿度の上限は60%以下」を目標に設定します。尚、エアコンの「除湿」設定は人間にとって快適である為の機能であり、必ずしも湿度を60%以下にしてくれる訳ではありません。
また経験上被害が多いカビはアスペルギルス・レストリクタス、アスペルギルス・ペニシリオイデス等で次にユーロチウム属、ワレミア等その他のカビと続きます。
[被害をもたらす代表的なカビの生育温度]
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発育温度 | カビ |
約6℃から37℃ | アスペルギルス・レストリクタス |
約5℃から37℃ | ユーロチウム・チェバリエリ |
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例えば夏季、エアコンで書庫内を19℃から20℃程度に設定してもカビは十分に生育します。むしろ約20℃は至適に近い温度です。「20℃(25℃)から30℃がカビの至適温度」と言われますが、これは至適温度であって20℃を下回ってもスピードは落ちますが生育しています。むしろカビは低温に強く浴室のパッキンに出て厄介なクロカビ(クラドスポリウム)は約3℃でも非常にゆっくりとですが生育しています。上記のように好乾性のカビの仲間も比較的低い温度で生育できます。従ってその空間において人間が作業したり、出入時の温度差による結露発生を考えるとカビ予防の為に温度を極端に下げることは現実的ではありません。
つまり温度でカビの発育を防ぐのは実質的に困難なのです。
参考図書: カビ検査マニュアルカラー図譜 株式会社テクノシステム発行