第1回 <カビの発生条件>
明治クリックス文化財IPM事業部です。
文化財IPMにまつわる情報発信コンテンツを立ち上げました。
教科書的なお話はもちろん、これまでの現場経験から得た知識・ノウハウを連載していきたいと思います。
第1回は、カビの発生条件についてのお話です。
「これってカビ…?」
作品や資料の表面に、ぽつぽつと白い何かがついていてゾッとした経験はないでしょうか。寄贈を受けた時点で付着していることに気づくことができればまだしも、収蔵庫の中や展示室で発見するとうろたえてしまうと思います。焦ってカビを除去することばかり考えてしまいますが、カビの発生条件を知らないことには根本的な解決はできません。
今回は博物館・美術館・資料館等の室内環境でカビが発生する条件についてお伝えします。(※水濡れ事例は除きます)
カビの3大発生条件
カビは主に胞子の状態で空中に浮遊しており、目には見えません。しかし、胞子がモノの表面に付着し、条件が整うと発芽して菌糸を伸ばします。そこから時間をかけて目に見えるまで数を増やし、いわゆる、カビが発生した状態になります。
室内環境下におけるカビの発生条件は主に「湿度」「栄養」「温度」です。条件は他にもいくつかありますが、環境面でコントロールできるものはこの3つです。
3つの条件について解説します。
湿度について
作品や資料に発生するカビはRH(相対湿度)65~90%でよく発育します。収蔵庫や展示室は、空調機械によりRH50~55%で維持管理をされている場合が多いと思います。しかし、大切なのは作品・資料の周りがRH50~55%であることです。施設が老朽化してくると、センサーで感知している温湿度と実環境の温湿度に誤差が生じていることがあります。また、収蔵品が多いと風通しが悪くなり、壁際や角の湿度が上昇している可能性があります。実環境の湿度と管理湿度に誤差はないか、確認されることをおすすめします。
栄養について
カビの栄養は、作品や資料の素材そのもの、ホコリ、利用可能な資料であれば皮脂や汚れが考えられます。管理者側でコントロールしやすく効果が得られるのはホコリの量を減らすことです。ホコリは、1グラム中に数十万~数百万前後のカビが生息しています。つまり、ホコリはカビの栄養であると同時にカビそのものでもあると言えます。作品・資料の表面にホコリが付着し、温湿度条件が整うとカビが発生することは明らかです。清浄な環境を作ることはカビ発生のリスクを大きく下げます。
温度について
カビが最も発生しやすい温度域は20~30℃です。人の生活温度、また資料にとっても適切な温度域と重なります。そしてこの温度域を外れても時間をかければカビは発生します。これらを踏まえると、温度管理によるカビの発生抑制は現実的には難しいです。
温度のことで気をつけるべきは、寒暖差による結露です。閉館時に空調を停止する運用をされている場合は、閉館中の温湿度推移も注意してご確認ください。特に冬季は空調を停止すると一気に温度が低下し、同時に湿度が上昇している可能性があります。
複合的な要因でカビの発生条件が整ってしまい、被害を及ぼす結果となります。カビの発生条件を知っておくことで、環境を整える優先順位やそれぞれの意味をご理解いただく一助になれば幸いです。
次回は、具体的なカビの種類についてお伝えしたいと思います。